PMDD(月経前不快気分障害)とは?
PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder:月経前不快気分障害)は、月経前に起こる重度の精神的・身体的症状を特徴とする疾患です。PMS(月経前症候群)と似ていますが、PMDD(月経前不快気分障害)はより深刻な影響を及ぼし、日常生活や仕事に支障をきたすほどの症状が現れます。
PMDDは単なる「生理前のイライラ」ではなく、精神疾患として正式に認められている病気です。そのため、適切な診断と治療が重要になります。
PMDD(月経前不快気分障害)の主な症状
PMDD(月経前不快気分障害:Premenstrual Dysphoric Disorder)は、PMS(月経前症候群)の中でも特に精神的な症状が重い状態を指します。
女性ホルモンの変化により心のバランスが大きく乱れ、うつ病や不安障害に似た深刻な症状が出ることが特徴です。
PMDDはPMSと比べて、日常生活・仕事・人間関係に大きな支障をきたすことが多く、医療機関での適切な対応が必要とされています。
精神的症状
PMDDの症状の中心は、情緒の不安定さや抑うつ感、怒りといった心の不調です。
- 強いイライラや怒り
些細なことで怒りが爆発し、人間関係に深刻なトラブルを引き起こすこともあります。 - 抑うつ感や絶望感
「もう何もかも嫌」「生きている意味がわからない」と感じるほどの深い落ち込みや絶望感が現れることがあります。 - 不安や緊張
理由のない不安に押しつぶされそうになったり、落ち着かずに不眠が続くこともあります。 - 感情の起伏が激しく、涙もろくなる
普段は我慢できるようなことにも強く反応し、感情を抑えきれなくなる傾向があります。 - 人間関係のトラブルが増える(衝動的な言動)
自分で自分をコントロールできない衝動的な発言や行動が原因で、家庭や職場での摩擦が増えることがあります。 - 集中力の低下、仕事や家事が手につかない
頭の中が混乱しているような感覚になり、普段できることが手につかなくなる状態も見られます。
※これらの症状は「性格」や「気の持ちよう」ではなく、月経周期に連動して起きる一時的な脳内の化学変化によるものです。
身体的症状
PMDDでもPMSと同様に、体にもさまざまな不調が現れます。
- 頭痛や偏頭痛
特に片頭痛タイプが多く、薬が効きにくい場合もあります。 - 腹部の膨満感や胃の不快感
食欲の変化や吐き気を伴うこともあり、胃腸への負担が強くなる傾向があります。 - 乳房の張りや痛み
ホルモンの影響で、胸が張って重く感じる・痛みが出るなどの症状がよく見られます。 - 筋肉痛や関節痛
全身のだるさに加えて、肩や腰、膝などに鈍い痛みを感じる人もいます。 - 疲労感や倦怠感
十分に寝ても疲れが取れず、体が鉛のように重く感じる状態になることがあります。 - 不眠または過眠
眠りが浅くなる、夜中に目が覚めるなどの不眠や、逆に日中の眠気が強くて活動できないという症状もあります。
症状のタイミング:生理が始まると軽減または消失
PMDDの症状は、月経が始まる数日前〜直前に強く現れ、生理が始まると数日以内に自然と軽くなるのが特徴です。
この周期性のある症状パターンが、うつ病などの気分障害との大きな違いとなります。
PMDDは日常へ支障が出てしまうところがPMSと違う
PMSもPMDDも、生理前のホルモン変化により起きる症状ですが、PMDDは日常生活に深刻な支障をきたす状態です。
「怒りが止まらない」「死にたくなる」「人に当たってしまって自己嫌悪になる」――そんな症状に心当たりがある場合は、PMSではなくPMDDの可能性もあります。
PMDD(月経前不快気分障害)の原因とは?
PMDD(月経前不快気分障害)は、PMSの重症型とも言われ、うつ病や不安障害のような強い精神的症状をともなう月経関連障害です。
その原因は一つではなく、ホルモン・脳内物質・遺伝・環境要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
ここでは、現在までにわかってきているPMDDの主な要因を、わかりやすく解説します。
1. ホルモンバランスの変化
女性ホルモンの急激な変動が、PMDDの引き金に
PMDDは、月経周期に伴うエストロゲンとプロゲステロンの大きな変動が、脳内の神経伝達物質に影響することで発症すると考えられています。
- 排卵後(黄体期)にプロゲステロンが急上昇し、その後急激に低下することで、脳内で気分や情緒を調整する物質(セロトニン・ドーパミンなど)のバランスが崩れやすくなります。
- 特にドーパミンの変動は、意欲の低下・興味の喪失・集中力の低下といった症状に関係しているとされます。
このようなホルモンと神経の連動した変化に、脳が過敏に反応してしまう人にPMDDが起こりやすいと考えられています。
2. セロトニンの機能低下
「幸せホルモン」の乱れが気分を不安定にする
セロトニンは、精神の安定・安心感・睡眠の質・痛みの緩和などに関わる重要な神経伝達物質です。
- PMDDの人は、ホルモンの変化によりセロトニンの合成や分泌が低下しやすいことが研究で明らかになっています。
- このセロトニンの低下によって、
→ イライラや不安、抑うつ感
→ 感情の起伏の激しさや睡眠障害
といった症状が引き起こされやすくなります。
なぜセロトニンが重要か?
セロトニンは、「心を落ち着かせるブレーキ役」のような存在です。これがうまく働かないと、感情のコントロールが難しくなる=PMDDの主要な症状につながるのです。
3. 遺伝的要因
PMDDは“なりやすさ”を持つ体質があるとされる
PMDDには、遺伝的な背景が関与している可能性も指摘されています。
- 家族にPMDDやうつ病・不安障害の既往がある人は、脳がホルモンの変化に敏感に反応する体質を受け継いでいることがあります。
- 特に、ホルモン変化に対するセロトニンの反応性が低い体質は、PMDDのリスク因子となり得ます。
※ 体質による影響のため、「気の持ちよう」ではなく、医学的な反応の違いが原因と理解することが大切です。
4. ストレスや生活習慣の乱れ
毎日の積み重ねが、脳やホルモンに影響する
PMDDの症状は、ストレスや不規則な生活によって悪化することが知られています。
ストレスの影響
- 精神的ストレスは自律神経やホルモン分泌に直結し、ホルモンバランスをさらに不安定にします。
- セロトニンの分泌も低下し、PMDDの症状が悪化する可能性があります。
生活習慣の乱れ
- 睡眠不足、不規則な食事、栄養不足などが続くと、神経伝達物質の材料が不足し、脳の調整力が低下します。
- 特に、ビタミンB6やマグネシウムの不足はセロトニンの合成に悪影響を与えるため、栄養バランスも非常に重要です。
PMDDの原因は「心の弱さ」ではない
PMDDは、月経周期という自然な身体のリズムに対する「脳の過敏な反応」が原因で起こる医学的な状態です。
原因の中心にはホルモン変化がありますが、それを受け取る脳や神経伝達物質のバランス、生活習慣、ストレスなど、さまざまな要因が重なり合っているのです。
「私の心が弱いせい」と思い詰める必要はまったくありません。
PMDDは正しく理解されるべき疾患であり、医師や専門家のサポートによって改善を目指すことができます。
自分でできるPMDD(月経前不快気分障害)のセルフケア
PMDD(月経前不快気分障害)は、生理前になると心が不安定になったり、生活に支障が出るほど気分が落ち込んだりする症状です。
「また来るかもしれない」と不安になっている方も多いのではないでしょうか。
ただ、PMDDは“対処できる症状”です。
ここでは、自分でできるケアや生活の工夫をまとめました。無理のない範囲でできることから、少しずつ取り入れてみてください。
1. 生活リズムを整える
PMDDの症状は、自律神経やホルモンバランスの乱れが関係しているため、生活リズムを整えることで落ち着きやすくなります。
▶ 睡眠をしっかりとる
- 就寝・起床時間を一定に保つ
- 寝る1時間前からスマホやパソコンを見ない
- 寝る前は白湯やハーブティーでリラックス
▶ 朝日を浴びる
- 朝起きてから10〜15分、自然光を浴びることでセロトニンの分泌が促進され、気分が安定しやすくなります。
2. 食生活の見直し
PMDDの症状には、脳の神経伝達物質の材料となる栄養素が関係しています。
▶ セロトニンを整える食材を意識
- ビタミンB6:鶏ささみ、マグロ、バナナ、にんにく
- マグネシウム:アーモンド、ひじき、カカオ70%以上のチョコレート
- トリプトファン(セロトニンのもと):豆腐、納豆、牛乳、ナッツ類
▶ 控えたいもの
- カフェイン・アルコール:神経を刺激し、不安感を強めることがあります
- 糖質のとりすぎ:血糖値の急上昇・急降下が気分の波を悪化させることも
3. 適度な運動を習慣にする
運動は、セロトニンやエンドルフィンといった“気分を安定させるホルモン”を分泌させる効果があります。
▶ 無理のない運動を毎日少しずつ
- ウォーキング(20〜30分程度)
- ヨガやストレッチ(呼吸を意識して行うとより効果的)
- 軽い筋トレ(スクワット・腹筋など)
ポイントは“続けられるかどうか”。頑張りすぎないことが一番大切です。
4. ストレスをためない工夫
PMDDはストレスの影響を受けやすいため、こまめに心を緩める時間をつくることが大切です。
▶ おすすめのリラックス法
- 深呼吸:「4秒吸う→4秒止める→8秒吐く」の「4-4-8呼吸法」
- アロマセラピー:ラベンダーやベルガモットなど、心を落ち着ける香り
- 好きなことに没頭する時間をつくる:音楽、読書、編み物、映画など
▶ 自分を責めない
- 感情の波があっても、「そういう時期だから」と受け入れる
- ネガティブな気持ちに気づいたら、「今は疲れているだけ」と声をかけてみましょう
5. 「つらさ」を記録する
- 手帳やアプリを使って、気分・体調・生理のサイクルを記録しておくと、
→ 自分のリズムがわかり、予防的な対策がとりやすくなります。 - 医療機関に相談する際にも、記録があるとより正確な診断や治療のヒントになります。
完璧にコントロールできなくても大丈夫
PMDDは、月経周期に伴って心と体が繊細になる状態です。
完全に防ぐことは難しくても、「こうすれば少し楽になるかも」と感じられる工夫を取り入れることで、自分自身との付き合い方が変わっていきます。
つらい時は無理をせず、必要に応じて婦人科や心療内科に相談することも、大切なセルフケアの一つです。
PMDD(月経前不快気分障害)の診断
PMDD(月経前不快気分障害)は、PMSの重症型とも言われる症状で、生理前に強いイライラや落ち込み、不安感などが現れる精神的な不調です。
日常生活に深刻な支障をきたすことも多いため、正しく診断し、適切な治療を受けることがとても大切です。
PMDDの診断方法
PMDDを診断する際は、「月経周期と症状の関連」があるかどうかを確認することが最大のポイントです。
そのうえで、他の精神疾患(うつ病・不安障害など)との区別をつけながら、専門的に判断します。
月経日記をつける
PMDDの診断に最も有効なのが、月経と症状を記録する「月経日記」です。
- 症状がいつ始まり、いつ軽くなるのか
- 気分や体調の変化が、毎月どのタイミングで起きているか
- 日常生活への影響の程度(仕事・家事・人間関係など)
最低でも2〜3か月分を記録すると、「生理前に強く出て、生理開始後に軽減する」というPMDDのパターンを把握しやすくなります。
DSM-5に基づく診断
診断の基準は、アメリカ精神医学会の「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)」に基づいて行われます。
PMDDと診断されるための主な条件(抜粋)
- 生理前の1週間以内に気分の落ち込み・怒り・不安などが強くなる
- 症状が生理開始後には明らかに軽快または消失する
- 仕事・学業・人間関係に実質的な支障が出ている
※ これらが毎月繰り返されていることが前提となります。
他の精神疾患との区別(見分け)
PMDDと似た症状をもつ疾患として、うつ病・双極性障害・不安障害などがあります。
- これらの疾患では「生理と無関係に不調が続く」ことが多いため、症状の周期性がPMDDとの違いのポイントになります。
- 併存しているケースもあるため、精神科医や心療内科医による丁寧な問診が必要です。
PMDDの治療方法
PMDDの治療には、薬物療法と非薬物療法(セルフケア・生活改善)を組み合わせることが効果的です。
症状の程度やライフスタイルに合わせて、医師と相談しながら柔軟に取り入れていくのが基本です。
薬物療法(医療的アプローチ)
● 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
- セロトニンの働きを補い、抑うつ・不安・怒り・気分の変動を安定させる効果があります。
- フルオキセチン(プロザック)やエスシタロプラム(レクサプロ)などが代表的。
※ 通年で使用する場合と、「排卵後から生理開始までの時期」に限定して使用する場合があります。
● 経口避妊薬(低用量ピル)
- 女性ホルモンの急激な変動を抑えることで、症状の出現や重症化を予防します。
- PMSにも効果がありますが、PMDDには特に排卵抑制効果が期待されます。
● 鎮痛剤・抗不安薬
- PMSやPMDDに伴う頭痛・腹痛・不眠・強い不安を一時的に和らげるために処方されることがあります。
※ 薬の使用はあくまで医師の指導のもとで安全に行うことが大前提です。
非薬物療法(生活習慣の改善)
日常生活を見直すことで、PMDDの症状を和らげたり、出にくくしたりする効果が期待できます。
▶ バランスの取れた食事
- ビタミンB6(鶏ささみ、マグロ、バナナ、にんにく)
- マグネシウム(アーモンド、ひじき、カカオ70%以上のチョコなど)
これらはセロトニンの合成を助け、気分の安定を支える栄養素です。
▶ 適度な運動
- ウォーキング・ヨガ・軽い筋トレなどを定期的に取り入れることで、
→ セロトニンやエンドルフィン(幸福ホルモン)の分泌を促進し、ストレス緩和や睡眠の質向上につながります。
▶ ストレス管理
- 瞑想・深呼吸・アロマセラピーなど、自分に合ったリラックス法を取り入れましょう。
- 趣味の時間を作る、自然の中で過ごす、誰かに話すなど、“心の逃げ場”を日常の中に持つことが重要です。
▶ 質の良い睡眠
- 寝る前のスマホやテレビを控える
- 暗く静かな寝室環境、温かい飲み物(白湯やハーブティー)でリラックス
- 朝の光を浴びて体内時計を整える
PMDDは「適切に診断・対応できる症状」
PMDDは「気のせい」でも「甘え」でもありません。
月経周期に連動して現れる、医学的に認められた精神的症状です。
- 自分の状態を記録し、気づくことが診断の第一歩
- 必要に応じて薬や生活の工夫を取り入れることで、症状は改善できます
「生理前になると心がつらくなる…」「人に言えないほど落ち込むことがある」――そんな思いを抱えている方は、ぜひ婦人科や心療内科に相談してみてください。
(出典:社会福祉法人恩賜財団済生会 月経前不快気分障害(PMDD))
まとめ
PMDD(月経前不快気分障害)は 「気のせい」ではなく、治療が可能な病気 です。毎月繰り返される症状に悩み、仕事や家庭生活に支障をきたしている方は、一人で抱え込まずに専門医に相談することが大切です。
「どうせ毎月のことだから」と我慢する必要はありません。
適切な治療を受けることで、生活の質(QOL)を改善し、より快適な日常を送ることができます。
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PMDD(月経前不快気分障害)は適切な治療を受けることで、症状の軽減が期待できます。つらい月経前の症状に悩んでいる方は、ぜひ一度ご相談ください。