拒食症(神経性やせ症)とは?
拒食症(神経性やせ症、Anorexia Nervosa)は、摂食障害の一種であり、極端な食事制限や過度な運動により体重を著しく減少させる疾患です。主に若年女性に多く見られますが、性別や年齢を問わず発症する可能性があります。体重増加への強い恐怖や歪んだ自己認識が特徴であり、適切な治療を受けないと深刻な健康被害をもたらす可能性があります。
拒食症の主な症状
拒食症の症状は、身体的・精神的・行動的な側面に分けることができます。
身体的症状
- 体重の著しい減少:BMIが極端に低下し、標準体重を大きく下回る。
- 低血圧・徐脈:血圧が低くなり、脈拍数が減少する。
- 月経不順または無月経:女性の場合、ホルモンバランスの乱れにより生理が止まる。
- 低体温・冷え性:体脂肪が減少し、寒さを感じやすくなる。
- 脱毛・髪の薄毛:栄養不足により髪の毛が細くなり抜けやすくなる。
- 骨密度の低下:カルシウム不足により骨粗しょう症のリスクが高まる。
精神的症状
- 体重増加への強い恐怖:痩せているにもかかわらず、体重が増えることに極度の不安を感じる。
- 歪んだ自己認識:鏡に映る自分の姿を過大に太っていると認識する。
- 抑うつ・不安障害:気分の落ち込みや強い不安感が伴うことが多い。
- 完璧主義的な性格:極端な自己管理を行い、食事や運動をコントロールしようとする。
極端な食事制限:摂取カロリーを極限まで抑える。
- 過度な運動:少しでも摂取したカロリーを消費しようと長時間運動する。
- 食べ物に対する強いこだわり:低カロリー食品のみを選び、食事の量や内容を厳しく制限する。
- 隠れて食べ物を捨てる:家族や周囲の目を避けて食事を抜いたり、食べるふりをする。
拒食症の原因とは?
拒食症(神経性無食欲症)は、単なる「食べない病気」ではなく、心と体のバランスが深く関係する、非常に複雑な病気です。
原因は一つではなく、さまざまな要素が重なり合って発症すると考えられています。
心理的要因
拒食症を抱える方の多くは、自分に対する評価がとても厳しい傾向があります。
- 自己肯定感の低さ
「もっと頑張らないと」「ちゃんとしていないとダメ」と、無意識に自分を追い込んでしまう気持ちが、食べることへの罪悪感やコントロール欲求につながることがあります。 - 完璧主義
勉強や仕事、見た目などで「理想通りでない自分を許せない」と感じると、体重や食事を細かく管理することで安心を得ようとするケースもあります。 - 抑うつや不安の影響
心が落ち込んでいるときや、強い不安を感じているときに「食べないことで気持ちが落ち着く」と感じてしまうことがあります。これが症状を強化する要因となることも少なくありません。
社会的要因
拒食症は、まわりからの影響を受けやすい病気でもあります。
- メディアやSNSの影響
テレビや雑誌、SNSなどで「細いこと=美しい」「痩せている人が評価される」といったメッセージに触れることで、「痩せなければ認められない」という思い込みが強まることがあります。 - 家庭や学校・職場でのプレッシャー
過干渉や無関心、厳しい評価、友人との比較など、自分を表現しづらい環境が症状の背景にあることもあります。 - 「食べること」への期待と評価
「もっと食べなさい」「そんなに食べていいの?」といった言葉も、本人にはプレッシャーとなってしまうことがあります。
生物学的要因
拒食症は心の病気でありながら、脳内の神経伝達物質やホルモンのバランスも関係しているといわれています。
- 遺伝的要因
家族に摂食障害を経験した人がいる場合、発症のリスクがやや高くなることがわかっています。体質や感受性の傾向が遺伝的に影響している可能性があります。 - 脳内ホルモンのバランス
セロトニンやドーパミンといった、気分や食欲に関係する神経伝達物質のバランスが乱れていると、摂食行動にも影響を及ぼすことがあります。
これらは「気持ちの問題」と片づけられない、医学的な背景を持つ疾患であることを示しています。
拒食症は「がんばりすぎた心のサイン」
拒食症は、「自分を守るために、無意識に始まった行動」が、少しずつ日常を苦しめていく病気です。
原因が一つではないからこそ、治療やサポートにも時間がかかることがあります。
「ちゃんと食べなきゃ」と責めるのではなく、
「なぜ、食べられないのか」「何が苦しいのか」を一緒に考えることが、回復への第一歩です。
拒食症の診断について
拒食症(神経性無食欲症)は、体重や食事への強いこだわり、体型へのゆがんだ認識、そして栄養不足による心身の不調が重なる病気です。見た目では判断しづらく、本人も「病気」とは気づいていないことが多いため、適切な診断がとても大切になります。
医師による問診
まずは、医師との対話による問診が行われます。ここでは以下のような点について丁寧に確認されます。
- 体重の変化(短期間で急に減っていないか)
- 食事量や食習慣の変化(極端な制限、カロリーへの強いこだわりなど)
- 「太ること」への強い恐怖や不安
- 月経の有無(女性の場合)
- 過度な運動や排出行動(嘔吐・下剤の使用)の有無
- 気分の落ち込み、不安感、イライラなどの心理的な変化
本人だけでなく、家族や周囲の人からの情報も参考にされることがあります。
DSM-5などの診断基準に基づく評価
拒食症の診断には、精神疾患の国際的な診断基準「DSM-5」が用いられます。以下の3つが主な診断基準です:
- 食事制限による著しい体重減少
年齢や性別に見合った体重より明らかに低い状態が続いている - 体重増加への強い恐怖
痩せていてもなお「太りたくない」と強く思い、体重を増やさないような行動をとる - 自分の体重・体型に対するゆがんだ認識
実際には痩せているにもかかわらず、「自分は太っている」と思い込む
※これらの症状が一定期間以上持続している場合、拒食症と診断される可能性があります。
身体的な検査もあわせて行う
拒食症は見た目の変化だけでは判断できない病気です。そのため、医師は以下のような検査も組み合わせて、身体状態を確認します。
- 血液検査:栄養状態や電解質バランス、肝機能、腎機能など
- 心電図検査:心拍数の低下や不整脈の有無
- 骨密度検査:骨粗しょう症のリスク確認(長期的な栄養不足による)
- ホルモン検査:月経停止や成長ホルモンの変化などの影響を評価
これらの検査を通じて、身体への負担がどの程度あるか、緊急性はないかも併せて確認されます。
受診のタイミングと大切な視点
拒食症は「もっと痩せないと」「私なんて大したことない」と、自分の状態を過小評価してしまうことがよくあります。
しかし、早期に気づき、適切な治療を始めることで、回復の可能性が大きく広がるのです。
- 食べることが苦痛になってきたとき
- 体重がどんどん減っているのに、太ることばかりが不安なとき
- 生理が止まってしまったり、体力が落ちてきたと感じるとき
そんなときは、一人で抱え込まず、心療内科や精神科、摂食障害に詳しい医療機関に相談することをおすすめします。
拒食症は、「食べられない自分が悪い」のではなく、心が限界を感じていることを、体が代わりに表現している状態かもしれません。
診断は、回復への第一歩。今の苦しさを軽くするために、どうか安心して受診を検討してください。
(出典:精神保健対策費補助金「摂食障害治療支援センター設置運営事業」摂食障害情報ポータルサイト 神経性やせ症)
拒食症の治療について
拒食症(神経性無食欲症)は、「食べないこと」だけが問題ではありません。
その背景には、強い不安や自分自身を責める気持ち、完璧でなければという思い込みがあることが少なくありません。
治療では、体を回復させるだけでなく、心の奥にあるつらさや思いにも丁寧に向き合うことが大切です。
治療の目的
拒食症の治療は次の3つの柱を中心に行われます。
- 身体的な健康を回復すること
- ゆがんだ食や体型への認識を整えること
- 心のストレスや葛藤に寄り添うこと
このため、医師・心理士・栄養士など多職種が連携した治療が行われるのが一般的です。
主な治療法
● 栄養指導と身体の回復
まずは、低栄養による危険な状態を改善することが最優先です。
- 極端な痩せによって、心臓や肝臓、腎臓の機能が低下している場合は入院治療が必要になることもあります。
- 外来治療では、栄養士による食事指導を受けながら、少しずつ食事量を増やしていきます。
- 「いきなり普通の量を食べる」のではなく、体と心が受け入れられるペースで段階的に進めます。
体重の数字だけにとらわれず、「体力が戻ってきた」「眠れるようになった」などの変化を一緒に喜ぶ姿勢が大切です。
● 心理療法(カウンセリング)
拒食症の多くには、「心の奥にある苦しさ」が関係しています。
- 認知行動療法(CBT):体重や食事へのこだわり、自己否定的な考え方に気づき、柔軟な受け止め方へ変えていくアプローチ。
- 対人関係療法:人との関わりの中で感じてきた緊張や不安、自分の役割について見つめ直す方法。
- 支持的なカウンセリング:ただ気持ちを話すだけでも、気づきや安心感につながることがあります。
「話すことに慣れていない」という方も、無理のないペースで受けられるよう配慮されます。
● 薬物療法(必要な場合のみ)
基本的に、拒食症そのものを治す薬は存在しません。
ただし、強い不安感や抑うつ状態、強迫的な思考が強い場合には、症状をやわらげる補助的な薬が使われることがあります。
- 抗うつ薬や抗不安薬など
- 睡眠障害に対する薬の処方
薬はあくまで「こころの状態を安定させるサポート」として使われるものであり、無理に使うことはありません。
● 家族支援と周囲の理解
拒食症は、本人だけでなく、家族や周囲の関わり方も回復のカギになります。
- 「もっと食べて」と言われることで、本人はプレッシャーを感じやすい
- “責めない・焦らせない・見守る”ことが、心の回復には何よりも大切
- 家族カウンセリングやサポートグループの活用も効果的です
家族も「どう接すればいいかわからない」と悩みやすいため、支援を受けることは本人と家族双方の助けになります。
回復には「時間」と「安心」が必要です
拒食症は、「がんばればすぐ治る」病気ではありません。
症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ回復していきます。
大切なのは、
- 本人のペースを尊重すること
- 一つでも「食べられるもの」が増えたら、それを一緒に喜ぶこと
- つらさを言葉にできたら、受け止めてあげること
「あなたはそのままで大丈夫」という安心感が、心と体を癒していきます。
拒食症の治療は、「食べさせること」ではなく、「心と体を同時に整えていくこと」です。
治療には時間がかかりますが、その先には「自由に食べられる日常」や「本当の自分を取り戻す」喜びが待っています。
もし今、「治療に踏み出すのが怖い」と感じている方がいれば、「話をすること」から始めてみませんか?
まとめ
拒食症は、早期に専門的な治療を受けることで改善が可能です。治療には、心のケアを重視したアプローチが必要で、認知行動療法や家族療法が効果的とされています。回復には時間がかかることもありますが、適切なサポートを受けながら、少しずつ心身の健康を取り戻すことができます。
拒食症で休職を考えている方へ
毎日頑張りすぎていませんか?環境の変化や職場のストレスで心身が限界を感じているなら、無理をせず一度立ち止まることも大切です。拒食症は、無理を続けることで悪化し、長期の不調につながることもあります。
「心身ともに限界で、早急に休職したい…。」
「しっかり治して、また職場に戻りたい…。」
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※症状や診断の内容によっては、当日に診断書を発行できない場合があります。適切な診断を行うために、詳細な問診や追加の評価が必要になることがあるためです。あらかじめご了承ください。
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