パニック障害とは?主な症状やその原因についても解説
パニック障害とは?
「突然、理由もなく動悸がして息が苦しくなった」「このまま死んでしまうかも…と感じたことがある」
そんな経験をしたことはありませんか?
パニック障害は、ある日突然、強い恐怖や不安に襲われる「パニック発作」が繰り返し起こる心の病気です。発作自体は数分でおさまることが多いものの、「また起きたらどうしよう」という不安が積み重なることで、日常生活にも支障が出てしまうことがあります。
特に現代社会では、仕事や家庭、対人関係のストレスが複雑に絡み合い、自分でも気づかないうちに心が限界を迎えていることも少なくありません。
この記事では、パニック障害の特徴・原因・診断・治療法などをわかりやすく解説しながら、適切なサポートの重要性についてお伝えしていきます。
パニック障害の症状
パニック障害は、「突然起こる激しい発作」だけが問題ではありません。その後に続く予期不安や回避行動によって、生活の幅が狭まり、外出や仕事、人との関わりにも支障をきたすことがあります。ここでは、パニック障害に特有の3つの症状について詳しく見ていきましょう。
パニック発作
何の前触れもなく襲う強烈な恐怖
パニック障害の中心的な症状が、「パニック発作」です。
何のきっかけもなく突然、以下のような身体的・精神的な反応が一気に現れます。
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動悸や息切れ
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発汗や手足の震え
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めまいやふらつき
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胸の痛みや圧迫感
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窒息しそうな苦しさ
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現実感の喪失(自分や周囲が遠く感じる)
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「このまま死ぬかもしれない」「気が狂うのでは」といった強い恐怖
これらの症状は、心臓や呼吸器の病気と誤解されやすく、最初は救急車を呼んで病院を受診する方も少なくありません。
「異常はない」と言われても、つらさが残ることで、どうすればよいのかわからなくなり、不安が募っていくこともあります。
予期不安
「また発作が起きるのでは」という強い恐れ
パニック発作が何度か起きると、「次はいつ、どこで起きるのか」と常に心配するようになります。これを予期不安と呼びます。
この不安は実際に発作が起きていない時にも続き、以下のような考えが頭を占めるようになります。
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「電車の中で倒れたらどうしよう」
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「会社で発作が起きたら恥ずかしい」
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「病院まで行けなかったら命に関わるかも」
こうした不安が日常的に続くと、心身の緊張状態が慢性化し、疲労やうつ症状を伴うケースもあります。
回避行動
不安を避けるために行動範囲がどんどん狭くなる
予期不安が強まると、「発作が起きそうな場所や状況」を避けようとするようになります。これが回避行動です。
たとえば、
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一人で外出できなくなる
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電車・バス・飛行機を避ける
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混雑した場所(ショッピングモール、映画館など)に行けない
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会議や授業など、途中で抜けられない場面を避ける
最初は「苦手な場面だけ」を避けていたのが、徐々に日常生活そのものに支障をきたすようになり、仕事や学校を休まざるを得なくなる人も少なくありません。
このように、パニック障害は発作そのものよりも、「発作がまた起きるかもしれない」という不安と、それを避けようとする行動によって、深刻な生活の質の低下を引き起こします。
広場恐怖症との関連性
パニック障害を抱える方の多くが、広場恐怖症(Agoraphobia)を併発していることをご存知でしょうか?
この2つは別々の診断名ではありますが、実際には深く結びついており、症状が互いに影響し合いながら悪化していく傾向があります。
広場恐怖症とは?
「逃げられないかもしれない」状況が怖い
広場恐怖症とは、自分の意思で自由に動けなかったり、その場からすぐに離れられなかったりする状況に強い不安や恐怖を感じる状態を指します。
たとえば、以下のような場面が典型です。
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特急電車や新幹線、飛行機などの長距離移動手段(途中下車や離脱が困難)
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エレベーターや地下室などの閉鎖的な空間
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高速道路やトンネル内(すぐに停車・退出できない)
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映画館や劇場、会議中など、その場を立ち去りにくい環境
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長蛇の列やアトラクション待ちなど、移動が制限される場面
これらの場所では、「もしこの状況でパニック発作が起きたらどうしよう」という予期不安が強まり、実際に発作が誘発されることもあります。
パニック障害と広場恐怖症が組み合わさるとどうなる?
パニック発作を経験した人が、「またあの苦しさを味わうかもしれない」と考えるようになると、その発作が起きた場所や似たような状況を避けようとする回避行動が始まります。
この避けたい対象が、先ほど挙げたような「逃げにくい・コントロールできない環境」である場合、それが広場恐怖症へとつながっていくのです。
このように、
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発作を経験する
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→ 「次もまた起こるのでは」という不安(予期不安)を抱く
-
→ その状況を避けるようになる(回避行動)
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→ 避ける対象が「逃げられない状況」になる(広場恐怖症)
という悪循環が生まれ、行動範囲が極端に狭まり、生活の質が大きく低下することになります。
広場恐怖症は「広場」だけの問題ではない
「広場」と聞くと、公園や駅前などの開けた場所をイメージする方も多いかもしれません。
しかし、ここでいう広場恐怖症は、「開放的な場所が怖い」という意味ではなく、“その場を自分の意志でコントロールできない”状況すべてが対象となります。
つまり、逃げ道のない場所、他人の視線がある場所、助けを求めづらい場所なども含まれ、個人によって恐怖を感じる対象やシチュエーションはさまざまです。
パニック障害と広場恐怖症の合併は日常生活に重大な影響を与える
この合併が進行すると、
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一人での外出ができなくなる
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通勤・通学が困難になる
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買い物や病院すら行けなくなる
-
同伴者がいないと安心できない
といった深刻な制限が生じ、社会生活や人間関係に強い影響を及ぼします。
そのため、パニック障害の診断にあたっては、広場恐怖症の有無を的確に評価することが重要です。
パニック障害の原因
パニック障害の症状は非常に強烈ですが、その原因は一つに限られるわけではありません。
身体的・心理的・環境的なさまざまな要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
以下では、これまでの研究や臨床経験から明らかになっている代表的な原因を詳しくご紹介します。
脳の働きと神経伝達物質のバランス異常
パニック障害は「気のせい」や「性格の問題」ではなく、脳内の神経活動の乱れが関与しているとされています。
とくに重要なのが、以下の神経伝達物質のバランスです。
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セロトニン:感情や不安の調整に関与
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ノルアドレナリン:ストレス反応や警戒心に関与
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GABA(ギャバ):脳の興奮を抑える働き
これらの神経物質の働きに異常があると、脳が「危険だ!」と誤って判断し、何の脅威もない場面で過剰な警報信号=パニック発作を出してしまうのです。
MRIやPETなどの脳画像研究でも、扁桃体(不安を司る部位)や前頭前野(理性をつかさどる部位)に機能的な違いがあることが報告されています。
遺伝的な要素や体質的な敏感さ
パニック障害には、遺伝的な傾向も一定程度あると考えられています。
実際、家族にパニック障害や不安障害を持つ人がいる場合、発症リスクが高くなるというデータがあります。また、ストレスに敏感な「神経質」「HSP傾向」などの体質を持っている人が、発症しやすいことも分かってきています。
とはいえ、遺伝や体質がすべてではありません。同じような家庭環境・性格でも発症する人としない人がいるため、あくまで要因の一つと考えるべきです。
過剰なストレスやトラウマ体験
パニック障害のきっかけとして最も多く報告されているのが、強いストレスや環境の変化です。
たとえば:
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仕事や学業でのプレッシャー、過労
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離婚、別居、失恋などの人間関係の変化
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病気、事故、親しい人の死などの心的外傷(トラウマ)
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出産や育児などライフステージの大きな変化
これらの出来事が、心身のバランスを崩す引き金となり、ある日突然パニック発作が出現することがあります。
発作が出るまでは「普通に生活できていた」という方が多いため、本人にとっても「なぜ自分が?」という混乱や自己否定感が生じやすいのが特徴です。
誤学習(条件づけ)による発作の再発
パニック障害の厄介な点は、「最初の発作」がトラウマのように記憶され、その後の不安や回避行動につながってしまうことです。
たとえば:
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電車の中で発作が起きた →「電車=危険」と学習
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人前で発作を起こした →「人目がある場所=怖い」と感じる
-
病院で異常なしと言われた →「治らない=もっと不安になる」
このように、脳が「無意識に危険な場所」と判断してしまうことで、同じ状況で再発しやすくなるのです。
この「誤った学習」は、認知行動療法などで修正が可能ですが、放っておくとどんどん避ける範囲が広がり、日常生活に深刻な影響を及ぼすようになります。
カフェイン・喫煙・アルコールなどの影響
カフェインの過剰摂取(コーヒー、エナジードリンクなど)や、喫煙、過度なアルコール摂取なども、交感神経を刺激しやすく、発作を誘発することがあるため注意が必要です。
とくにパニック障害の発症初期や再発期には、カフェイン・アルコールの摂取量を控えることで症状が安定するケースもあります。
原因は「ひとつ」ではなく、「重なりあって」発症する
パニック障害の原因は、脳内の機能異常や神経伝達物質のバランス、ストレス、体質、経験などが複雑に関与しているため、単一では説明できません。
つまり、原因が明確に特定できなくても、
「あなたが弱いから起きた」のではなく、誰にでも起こりうる心の病気であるということです。
パニック障害の検査・診断基準
パニック障害は、血液検査や画像検査だけでは診断できない「心の病気」です。そのため、診断には医師による丁寧な問診と症状の評価が欠かせません。
ここでは、実際に医療機関で行われるパニック障害の検査・診断プロセスと、国際的な診断基準について詳しく解説します。
医療機関での基本的な診察の流れ
① 問診(症状の聞き取り)
診断の中心となるのは、精神科や心療内科の専門医による問診です。たとえば、次のような内容が確認されます。
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初めて発作が起きたのはいつか?
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発作時の具体的な症状は?(動悸、呼吸困難、震えなど)
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どれくらいの頻度で発作が起きるか?
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何か誘因(ストレス・場所・時間帯など)はあるか?
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発作がないときにも不安があるか?
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発作を避けるような行動(回避行動)が出てきていないか?
症状の持続性や広がり(予期不安・広場恐怖症の有無)も含め、日常生活への影響があるかどうかも重要な判断材料となります。
② 身体疾患の除外
パニック発作に似た症状は、甲状腺機能亢進症、不整脈、低血糖、喘息、てんかん、心筋症などの身体疾患でも起こり得ます。
そのため、必要に応じて以下のような身体検査も行われます。
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血液検査(甲状腺ホルモン、血糖値、炎症反応など)
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心電図(不整脈の有無)
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胸部レントゲン(心臓や肺の状態)
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頭部MRI/CT(てんかんや脳の器質的疾患除外)
これらの検査で身体的な異常が認められない場合、精神的要因によるパニック障害の可能性が高くなるのです。
パニック障害の診断基準(DSM-5に基づく)
精神疾患の診断には、アメリカ精神医学会が定める「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)」が国際的に用いられています。
パニック障害の診断には、以下のような明確な基準があります。
A. パニック発作の存在
繰り返し予期しないパニック発作が起こる。
※パニック発作とは、以下の13項目のうち4つ以上が突然出現し、数分以内にピークに達するもの。
- 動悸、心拍数の増加
- 発汗
- 震えまたは震動感
- 息切れまたは息苦しさ
- 窒息感
- 胸の痛みまたは不快感
- 吐き気や腹部の不快感
- めまい、ふらつき、気が遠くなる感じ
- 寒気またはほてり
- しびれ感(感覚まひ)
- 現実感の喪失、自己が離れる感覚
- 自分をコントロールできない・気が狂うという恐怖
- 死への恐怖
B. 発作後1か月以上にわたり、以下のいずれか、または両方が続く
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発作が再び起こるのではという持続的な心配(予期不安)
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発作の結果に対する行動の変化(回避行動など)
C. 発作は物質(薬物、アルコールなど)や身体疾患によるものではない
D. 他の精神疾患(うつ病、社交不安障害、強迫症、PTSDなど)では説明できない
広場恐怖症の有無も診断に影響する
パニック障害の診断では、「広場恐怖症を伴うかどうか」も大切な診断項目です。
同じようにパニック発作があっても、「電車や会議など逃げづらい状況を避けるかどうか」で診断名が変わることがあります。
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パニック障害のみ
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パニック障害+広場恐怖症合併
-
広場恐怖症のみ(発作を伴わない)
といった区分で診断されることもあるため、正確なヒアリングが重要です。
診断には「自己判断」ではなく、専門的な評価が不可欠
パニック障害の診断は、問診・身体疾患の除外・DSM-5基準の確認という多段階的な評価によって行われます。
発作があっても、自己判断だけでは正確な診断には至りません。
「何科を受診すればいいのか分からない」と迷われる方も多いですが、心療内科や精神科の専門医に相談することで、安心して次のステップへ進むことができます。
パニック障害による生活への支障
パニック障害は、単に「一時的な発作」で済むものではありません。
発作に対する恐怖(予期不安)や、それを避けるための行動(回避行動)によって、仕事、対人関係、外出や買い物などの日常生活のあらゆる面に支障が生じてしまいます。
ここでは、パニック障害が具体的にどのような「生活の困難」を引き起こすのか、詳しく解説します。
仕事への影響──「働きたいのに働けない」現実
▸ 出勤ができない・通勤電車に乗れない
多くの患者様がまず直面するのが、通勤への恐怖や困難です。
とくに「途中で降りられない」「人が多い」「周囲の目が気になる」状況が揃う満員電車やバスは、パニック発作の引き金になりやすく、乗るのを避けるようになります。
「毎朝、出社できるか不安で眠れない」「会社に着く前にパニックになりそうで動けない」といった訴えは珍しくありません。
▸ 職場での発作の不安・集中力の低下
職場でも「発作が起きたらどうしよう」という不安から、会議・接客・電話対応など、抜け出せない場面を極端に避けるようになることがあります。
結果的に、集中力や判断力の低下、業務効率の悪化につながり、「自分は仕事に向いていないのでは」「もう働けないかも」という自己否定感を持つ人も少なくありません。
▸ 病気への理解不足から職場で孤立
パニック障害は外から見えにくく、周囲に理解されにくい疾患です。
「サボっている」「気合が足りない」と誤解されることもあり、職場での孤立や人間関係の悪化にもつながりかねません。
対人関係への影響──「人と会うのが怖くなる」
▸ 発作を知られたくないという羞恥心
「発作を起こして人に迷惑をかけたらどうしよう」「おかしい人だと思われるのが怖い」といった羞恥心や不安から、人と会うこと自体を避けるようになるケースも多く見られます。
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会食や飲み会の誘いを断る
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結婚式や葬儀など長時間の集まりを避ける
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親しい友人との外出も不安で遠慮する
このような行動が続くと、孤独感や疎外感が強まり、うつ状態へと発展することもあります。
▸ 家族や恋人との関係がぎくしゃくする
理解ある家族がいる場合は支えになりますが、時に「なんでそんなことで?」と心無い言葉をかけられたり、「また休むの?」と距離を置かれてしまったりすることもあります。
本人の辛さが伝わらないまま、関係性が崩れてしまうことも少なくありません。
日常生活への影響──「今までできていたこと」ができなくなる
▸ 外出・買い物・一人行動への制限
発作の不安から、自宅の外に出ること自体が怖くなる人も多くいます。
買い物、病院、銀行、役所などの外出も同伴者がいないと行けず、「一人では何もできない」「社会から取り残されたように感じる」と訴える方もいます。
また、以下のような行動も困難になりがちです:
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車の運転(渋滞や信号待ち中に不安が強まる)
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映画館や美容院など「途中退出しづらい場所」
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子どもの行事や保護者会への参加
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飛行機や高速道路の利用
▸ 自己肯定感の低下と悪循環
こうした生活上の制限が続くと、「自分は何もできない」「普通の人と違う」といった自己否定感が強まり、さらなる不安や抑うつ状態につながります。
行動範囲の縮小 → 孤立 → 不安増大 → 発作増加という悪循環に陥ることもあります。
パニック障害は「生活の質」を大きく奪う疾患
パニック障害は一見すると「一時的な症状」のように思われがちですが、日常のあらゆる場面に影響を及ぼす生活障害型の疾患です。
とくに「仕事ができない」「人と会えない」「外出できない」という状態が続くと、社会的なつながりも失われ、本人の苦しみはさらに深まっていきます。
しかし、早期に適切な診断と治療を受けることで、回復は十分に可能です。自分を責めず、「これは治療が必要な状態なのだ」と知ることが、回復への第一歩となります。
パニック障害と区別すべき精神疾患
パニック障害と似たような不安症状や回避行動を示す精神疾患はいくつか存在します。特に以下の4つは、症状が重なりやすく誤診されやすいため、的確な鑑別が必要です。
社交不安障害(SAD)──人前での「評価」が怖い
主な特徴:
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人から「どう思われるか」「恥をかくかもしれない」という評価不安が中心
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会話、発表、食事、電話応対など、他人の注目が集まる場面で極度に緊張する
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発汗、震え、赤面、言葉が出ないなどの身体症状もあり
パニック障害との違い:
項目 | 社交不安障害 | パニック障害 |
---|---|---|
不安の対象 | 他人からの評価や視線 | 発作自体や再発への恐怖 |
発作の出現状況 | 人前・社会的場面に限定 | 特定のきっかけがなく突然出現 |
回避する理由 | 恥をかくことへの恐れ | 発作を起こすことへの恐れ |
パニック障害では「場所」や「状況」への不安が中心ですが、社交不安障害は「人の目」そのものが恐怖の対象になります。
強迫性障害(OCD)──頭から離れない思考と止められない行動
主な特徴:
-
頭に浮かぶ不快な思考(強迫観念)が繰り返し出現し、それを打ち消すために儀式的な行動(強迫行為)を繰り返す
-
例:ドアの鍵を何度も確認する、手を繰り返し洗う、特定の数字や順番にこだわる
パニック障害との違い:
項目 | 強迫性障害 | パニック障害 |
---|---|---|
中核となる症状 | 思考や行動のコントロール困難 | 発作への恐怖と身体症状 |
不安の原因 | 強迫観念(汚染、加害など) | 突然の身体反応・死の恐怖 |
行動の目的 | 不安を和らげるためのルールに従う | 発作を避けるために行動範囲を狭める |
OCDでは、患者自身が「この行動はバカバカしい」と感じていることも多く、自覚的に不合理とわかっているのに止められない苦しさが特徴です。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)──過去のトラウマが今も続いている
主な特徴:
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命の危険を感じるようなトラウマ体験(事故、災害、暴力など)の後に発症
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フラッシュバック、悪夢、過覚醒(常に緊張している)、回避行動が現れる
-
急な心拍上昇や不安発作もみられることがある
パニック障害との違い:
項目 | PTSD | パニック障害 |
---|---|---|
原因 | 明確な外傷体験がある | 特定の外傷体験がないことも多い |
発作のきっかけ | トラウマを思い出す場面・刺激 | 突然、特に明確なきっかけがない場合も |
症状の範囲 | 感情麻痺、過覚醒、再体験など多岐に渡る | 主にパニック発作と予期不安、回避行動 |
PTSDでは「過去の出来事」が現在に影響し続けている状態であり、再体験症状(トラウマのフラッシュバック)が大きなポイントです。
分離不安障害──愛着対象から離れることへの強い恐怖
主な特徴:
-
子どもだけでなく成人にも見られる不安障害
-
親、配偶者、恋人など特定の人物から離れることに対して強い不安を抱く
-
離れると、動悸、震え、吐き気など身体症状が出る場合もある
パニック障害との違い:
項目 | 分離不安障害 | パニック障害 |
---|---|---|
不安の内容 | 愛着対象と離れること | 突発的な身体症状や再発 |
行動の特徴 | 一人でいることを極度に避ける | 発作が起きそうな場所や状況を避ける |
発症時期 | 子どもから大人まで幅広く | 主に思春期~30代に多い |
パニック障害でも「一人で外出できない」という回避行動が見られることがありますが、その原因が「発作への不安」か「愛着対象への依存」かによって鑑別が必要です。
正しい診断が治療の第一歩
パニック障害は、他の不安障害や精神疾患と症状が重なる部分が多いため、専門的な診断が不可欠です。
とくに社交不安障害・強迫性障害・PTSD・分離不安障害とは「不安」「回避」「身体反応」などが共通するため、自己判断ではなく心療内科・精神科での正確な鑑別が重要です。
症状が似ていても、治療方法やアプローチはそれぞれ異なります。
だからこそ、「自分の不安がどこから来ているのか」を理解し、適切な支援を受けることが、改善への第一歩となります。
パニック障害の治療について
パニック障害は、脳の働きと心理的な認知パターンの両方が関与する疾患です。
そのため、治療では「薬物療法」と「心理療法(とくに認知行動療法)」を組み合わせて行うのが効果的とされています。
ここでは、代表的な薬と心理的アプローチの内容・効果を詳しくご紹介します。
【薬物療法】──神経伝達のバランスを整える
1. 抗うつ薬(SSRI・SNRI)
抗うつ薬は、パニック障害の第一選択薬として広く用いられます。うつ症状がなくても処方されることがあり、これは「セロトニンやノルアドレナリンの神経伝達を整えることで、不安や恐怖の回路を正常化する」ためです。
主な薬剤例:
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パロキセチン(パキシル)
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セルトラリン(ジェイゾロフト)
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エスシタロプラム(レクサプロ)など
効果:
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発作の頻度や強度を抑える
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予期不安や回避行動を減らす
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日常生活の安心感を取り戻す
※効果が現れるまで2~4週間程度のタイムラグがあるため、すぐに効かないからと中断しないことが大切です。
2. 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)
抗不安薬は、不安や緊張を短時間で和らげる即効性のある薬です。
主な薬剤例:
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ロラゼパム(ワイパックス)
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アルプラゾラム(ソラナックス/コンスタン)
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エチゾラム(デパス)など
効果:
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急なパニック発作を抑える
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外出や行動のハードルを下げる
注意点:
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依存性や耐性のリスクがあるため、長期服用には慎重な管理が必要です。
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医師の指導のもと、必要最低限・段階的な使用が推奨されます。
3. βブロッカー(交感神経の働きを抑える)
βブロッカーは、もともとは高血圧や心臓疾患の薬ですが、身体的な症状(動悸、震えなど)を和らげる目的で、パニック障害にも使われることがあります。
主な薬剤例:
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プロプラノロール(インデラル)
効果:
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緊張場面での心拍上昇や手の震えを抑える
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「発作が起きるのでは」という身体不安を軽減
※こちらも、あくまで補助的な使用にとどまります。根本治療には認知行動療法との併用が効果的です。
【認知行動療法(CBT)】──考え方と行動のクセを変えていく治療法
認知行動療法(CBT)は、パニック障害の再発予防・回避行動の改善に非常に効果的とされている心理療法です。
「考え方(認知)」と「行動パターン」の偏りを修正することで、症状の悪循環を断ち切り、安心して生活できるようにすることを目指します。
1. 認知再構成法──「発作=死ぬ」ではないと捉え直す
パニック障害の患者様は、「発作が起きたら死ぬかもしれない」「気が狂うかもしれない」という極端な思考(自動思考)を持ちやすくなります。
認知再構成法では、
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「実際に発作で命に関わることはあったか?」
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「同じような症状を持つ他人はどうしているか?」
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「少し苦しいけれど、5分でおさまったという経験はなかったか?」
など、現実的な視点で不安思考を検証し、より柔軟な考え方へと変えていきます。
これは、脳の「誤った危険信号」を修正する作業でもあります。
2. 暴露反応妨害法(エクスポージャー)──避けていた状況に少しずつ慣れる
「発作が怖いから電車に乗れない」「美容室に行けない」などの回避行動を続けていると、不安はどんどん強化されてしまいます。
暴露反応妨害法では、不安を感じる状況に段階的・計画的にさらされる(暴露)練習を行います。
たとえば:
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駅のホームに10分だけ立ってみる
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美容室に予約の電話だけかけてみる
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エレベーターに一度だけ乗って降りる
このとき、「発作が起きそうになったらすぐ逃げる」という行動(反応)を妨げ、“実際には乗り越えられる”という経験を脳に学習させることで、徐々に不安を軽減していきます。
3. リラクゼーション技法──不安を和らげる心と体の練習
不安や緊張を感じたとき、身体的な反応(心拍数、呼吸の浅さ、筋肉の緊張など)が悪化を招くことがあります。
リラクゼーション技法は、こうした身体の興奮を自分でコントロールできるようにするスキルです。
代表的な技法:
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腹式呼吸法(お腹を使った深い呼吸で副交感神経を活性化)
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漸進的筋弛緩法(筋肉を一度緊張させてからゆっくり緩める)
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マインドフルネス瞑想(今この瞬間に意識を向ける)
これらの練習を日常的に取り入れることで、発作の前兆に気づき、早めに心身を落ち着けることが可能になります。
治療法は「あなたに合った組み合わせ」がカギ
パニック障害の治療は、「薬で神経の興奮を鎮める」と同時に、「考え方や行動を修正して再発を防ぐ」という二本柱で行うことが重要です。
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発作を減らしたい → 薬物療法が効果的
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予期不安や回避行動を改善したい → 認知行動療法が有効
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発作に備えて落ち着く技法が欲しい → リラクゼーションが役立つ
焦らず、少しずつ段階的に取り組むことで、日常を安心して過ごせる自分を取り戻すことは十分に可能です。
(出典:厚生労働省 パニック障害(パニック症)の認知行動療法マニュアル)
パニック障害で休職を考えている方へ
毎日頑張りすぎていませんか?環境の変化や職場のストレスで心身が限界を感じているなら、無理をせず一度立ち止まることも大切です。パニック障害は、無理を続けることで悪化し、長期の不調につながることもあります。
「心身ともに限界で、早急に休職したい…。」
「しっかり治して、また職場に戻りたい…。」
そんな思いを抱えている方が、安心して治療に専念できるよう、メンタルケアLino clinic(リノクリニック)福岡天神院では、休職や復職のために必要な診断書を、最短即日で発行できる体制を整えております。少しでも早く、心と体を休められるよう、お気軽にご相談ください。※症状や診断の内容によっては、当日に診断書を発行できない場合があります。適切な診断を行うために、詳細な問診や追加の評価が必要になることがあるためです。あらかじめご了承ください。
まとめ
パニック障害の症状は適切な治療によって改善が期待できます。発作への不安が強くなり、日常生活に支障を感じている場合は、一人で抱え込まず専門医に相談することが大切です。Lino clinic(リノクリニック)福岡天神院では、患者さま一人ひとりの不安に寄り添いながら、適切な治療を提案しています。 赤坂駅や天神駅から徒歩圏内にあり、土日祝日も夜8時まで診療しているため、お仕事帰りや忙しい方でも通いやすい環境を整えています。パニック発作の不安を和らげるために、一緒に向き合っていきましょう。お気軽にご相談ください。