PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは 2025/03/25

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

 

このコラムでは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やトラウマ体験に関する内容を含みます。
過去のつらい記憶を思い出してしまうような表現が含まれる可能性がありますので、心身の状態に不安がある方は無理をせず、読み進めるかどうかをご自身のペースでご判断ください。

もし今、とてもつらいと感じている方は、信頼できる人や医療機関に相談することをおすすめします。

PTSDとは? 〜心の傷とどう向き合うか〜

交通事故、災害、暴力、性被害、いじめ、突然の死別など――
誰もが人生のなかで、大きなショックや深い傷を経験することがあります。

時間とともに癒えることもありますが、中には
「出来事が終わった後も、その体験が何度もよみがえる」
「何年経っても怖さや緊張が続いている」
といった形で、心や体に影響が残ることがあります。

このような反応が強く、日常生活に支障をきたしている状態を、
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と呼びます。

PTSDは、特別な人にだけ起こるものではありません。
誰にでも起こり得る、心の“けが”です。

このコラムでは、PTSDの症状や原因、診断、治療法、そして日常生活での向き合い方について、
心療内科・精神科の視点から、やさしくわかりやすく解説していきます。

 

PTSDとはどんな病気?

PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder/心的外傷後ストレス障害)は、命の危険を感じるような強いショックや恐怖、悲しみを体験したあとに起こる、心の深い傷です。

トラウマとなる出来事が終わった後も、その記憶や感情が心と体に残り、日常生活に支障をきたす状態をいいます。

PTSDの原因となる出来事(トラウマ体験)

PTSDの引き金となる出来事は、次のような「強い衝撃を受ける体験」が挙げられます。

こうした体験は、直接自分が被害に遭った場合だけでなく、目撃したり、家族や友人が巻き込まれたりした場合にも、心に深い影響を与えることがあります。

ただの「怖い思い出」ではありません

PTSDは、「怖い体験をしたけど時間がたてば忘れられる」という状態とは異なります。

これがPTSDの苦しさです。
本人にしかわからないつらさがあり、「もう終わったことなのに」と言われても、自分ではどうにもならない状態が続きます。

誰にでも起こりうる病気です

PTSDは、「心が弱い人がなる」といった誤解をされがちですが、決してそうではありません。

心の傷は、目に見えにくいだけで「確かにある」

PTSDの苦しさは、外から見えにくいため、周囲に理解されにくく、孤独を感じやすい病気でもあります。

そのため、安心して話せる環境や、適切な治療やサポートがとても重要です。

PTSDは「心の回復を待っている状態」

PTSDは、「時間がたてば自然に治る」と思われがちですが、放っておくと症状が長期化し、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。

けれど、適切なケアを受けることで、少しずつ心は回復し、安心を取り戻すことができます。

「これはもう乗り越えたはずなのに、まだ苦しい」
そんなときは、自分を責めずに、心がSOSを出しているのだと受け止めてあげてください。

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PTSDの主な症状

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状は、単なる“つらい記憶”ではなく、心と体に深く刻まれたトラウマによって引き起こされる反応です。

症状は人によって現れ方が異なりますが、主に以下の4つのタイプに分類されます。
それぞれの症状が単独で、あるいは複数同時に現れることがあり、日常生活や人間関係に大きな影響を与えることもあります。

① 再体験症状(フラッシュバック)

トラウマ体験が、まるで“今”起きているかのように繰り返しよみがえる症状です。

再体験の際には、「理屈では過去の出来事とわかっていても、感覚が止められない」状態に陥ることが多く、周囲の理解が得にくいことも苦しさを深めます。

② 回避症状

トラウマと関連するものを避けようとする無意識の防衛反応です。

こうした回避は心を守るための自然な反応ですが、人とのつながりが絶たれたり、社会生活への参加が難しくなったりすることで、孤立や引きこもりにつながることもあります。

③ 過覚醒症状(常に緊張している状態)

脳と体が「常に危険に備えている」状態に陥っていることから生じる反応です。

これは、交感神経が常に高ぶっている「警戒モード」が解除できない状態とも言えます。
本人が意識していなくても、体と脳は“次の危険”に備えているのです。

④ 否定的な認知や気分の変化

PTSDでは、その体験をどうとらえるかという“認知の変化”も強く現れます。

こうした状態はうつ病に似た様相を呈し、「感情が動かない」「希望が持てない」といった感覚が長期間続くこともあります。
「自分はもう回復できないのでは」と感じるようになってしまうのも、PTSDの特徴のひとつです。

症状は「その人なりの心の反応」

PTSDの症状は、体験のつらさやその後のサポート体制、もともとの気質などさまざまな要素が絡み合って生じます。

症状に気づくことが回復の第一歩

PTSDの症状は、つらい記憶を無理に忘れようとしても、体が覚えていて現れるものです。
症状に名前がつくことで、「これは自分の弱さじゃない」と気づくきっかけにもなります。

「思い出したくないのに思い出してしまう」
「気持ちを抑えられない」
そんなときは、自分を責めずに、心がまだ回復を必要としているサインだと思ってみてください。

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PTSDの診断基準

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、「命の危険を感じるような強い精神的ショックを体験した後に、心と体にさまざまな反応が続く病気」です。

この診断には、アメリカ精神医学会が定めた診断基準「DSM-5」が使われます。
ここでは、実際の診断でどのようなポイントが重視されるのか、やさしく解説します。

精神科医が確認する3つの柱

① 明確なトラウマ体験があること

まず、命に関わるような恐怖や衝撃的な出来事を体験したかどうかが重要です。
たとえば:

直接の被害でなくても、目撃や話を聞いただけでも発症することがあります。

② 4つの症状群のうち、すべてが確認されること

PTSDと診断されるには、以下の4つの症状群がそろっており、それが1か月以上続いていることが必要です。

■ 再体験症状(フラッシュバック・悪夢など)

■ 回避症状

■ 過覚醒症状

■ 否定的な認知や気分の変化

これらの症状が明確なトラウマ体験のあとに起きており、1か月以上続いていることが診断の大きなポイントです。

③ 症状によって生活に支障が出ていること

単に「つらい気持ちがある」だけではなく、日常生活や人間関係、仕事・学校などに影響を及ぼしているかどうかも診断の重要な判断材料になります。

こうした「社会的な支障」や「生活の質の低下」があるかを精神科医が丁寧に確認します。

他の病気との見分けも大切です

PTSDの症状は、うつ病、パニック障害、適応障害、強迫性障害などとよく似ている部分があります。
そのため、診断では:

を総合的に見て、誤診を避けながら慎重に判断されます。

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PTSDの治療法について

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、過去のつらい出来事が心と体に残り続け、生活に影響を与えてしまう病気です。
ですが、適切な治療を受けることで、少しずつ安心と穏やかさを取り戻すことが可能です。

Lino clinicでは、患者様一人ひとりの症状や心の状態に寄り添いながら、以下のような治療を組み合わせて行っています。

① 薬物療法:つらさを和らげるサポートとして

PTSDでは、不安・不眠・気分の落ち込みなどの症状が強く出ることがあります。
そのような場合、薬を補助的に使うことで、心の状態を少し軽くするお手伝いをします。

▶ 薬はあくまでも「症状の軽減」が目的であり、無理に服用を勧めることはありません。
ご本人の気持ちを尊重しながら、必要に応じて丁寧にご説明し、一緒に決めていきます。

② 精神療法(トラウマフォーカスト療法):心に向き合う安心の時間

Lino clinicでは、「つらさの根本に優しく触れていく」精神療法を大切にしています。

認知行動療法(CBT)

EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)

支持的カウンセリング

③ 生活へのアドバイス:回復しやすい体と心の土台づくり

PTSDは、心の病気であると同時に、体全体のバランスとも深く関係しています。
そのため、日々の生活の中でできることも大切な一歩になります。

▶ 小さな変化でもかまいません。
「自分にやさしくする生活習慣」こそが、安心の土台になっていきます。

治療は、自分を取り戻していくプロセス

PTSDの治療は、「過去を忘れる」ためのものではありません。
“今ここ”の自分を少しずつ回復させ、安心して生きられる未来を取り戻していくためのものです。

Lino clinicでは、患者様一人ひとりのペースを大切に、
急がず、無理をせず、一緒に心の整理を進めていく時間をご用意しています。

「まだつらい」「思い出してしまう」そんなときも、どうかご自身を責めずにご相談ください。
回復には時間がかかってもかまいません。少しずつ、向き合っていきましょう。

(出典:PTSD(心的外傷後ストレス障害)の認知行動療法マニュアル

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周囲の理解とサポートも大切です

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、目には見えにくい“心の傷”を抱える病気です。
本人は自分の苦しみをうまく説明できなかったり、
「こんなことでつらいと思うなんて、自分が弱いのでは」と自分を責めてしまうこと
もあります。

そんなとき、そばにいる人の理解や言葉が、回復への大きな力になります。

無理に話させない、でも「気にかけている」と伝える

トラウマの記憶は、思い出すだけで心身に大きな負担がかかります。
「何があったの?」「詳しく教えて」と無理に聞き出すのではなく、話す準備ができたときに、安心して話せる関係を保つことが大切です。

沈黙を恐れず、“安心できる存在であること”を示していく姿勢が信頼につながります。

「もう忘れたら?」「元気出して」はNGワード

PTSDの方は、体験を「忘れたくても忘れられない」「思い出したくないのに浮かんでくる」状態にあります。

こうした言葉は、本人のつらさを否定するものとして深く傷つけてしまうことがあります。
むしろ、「大変だったね」「よくここまで頑張ってきたね」と、気持ちを受け止める言葉が、安心を生み出します。

「わかってもらえない」と感じる孤独が一番の敵

PTSDのつらさは、自分でもコントロールできない症状があること、そして理解されにくいことにあります。
そのため、「誰にもわかってもらえない」「どうせ話しても無駄」と感じると、どんどん孤立感が深まってしまいます。

▶ 周囲の人が“特別な支援者”になる必要はありません。そばにいて、否定せず、話を聞くこと。それだけで大きな力になります。

支えることは「ともにいること」

PTSDの回復には時間がかかりますが、回復には“安心できる人とのつながり”が欠かせません。

「何もできない」と思うかもしれませんが、
そばにいてくれる人の存在こそが、“安心の記憶”となって心を癒していきます

焦らず、責めず、寄り添うこと。
それが、支える側にできるいちばんやさしい支援です。

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心身の不調で休職を考えている方へ

毎日頑張りすぎていませんか?環境の変化や職場のストレスで心身が限界を感じているなら、無理をせず一度立ち止まることも大切です。心身の不調は、無理を続けることで悪化し、長期の不調につながることもあります。

「心身ともに限界で、早急に休職したい…。」
「しっかり治して、また職場に戻りたい…。」

そんな思いを抱えている方が、安心して治療に専念できるよう、メンタルケア Lino clinic(リノクリニック)福岡天神院では、休職や復職のために必要な診断書を、最短即日で発行できる体制を整えております。少しでも早く、心と体を休められるよう、お気軽にご相談ください。

※症状や診断の内容によっては、当日に診断書を発行できない場合があります。適切な診断を行うために、詳細な問診や追加の評価が必要になることがあるためです。あらかじめご了承ください。

メンタルケア Lino clinic(リノクリニック)福岡天神院のご案内

PTSDをはじめ、過去のつらい体験による心身の不調にお悩みの方へ。
メンタルケア Lino clinic(リノクリニック)福岡天神院では、専門的な視点での診断・治療を行いながら、一人ひとりに寄り添った丁寧なケアを提供しています。

当院は 土日祝も20時まで診療 しており、赤坂駅・天神駅から徒歩圏内でアクセスも便利。

お忙しい方でも通いやすい環境を整えており、当日予約も可能です。

心の奥に残る傷と向き合うのは、簡単なことではありません。

でも、その一歩を踏み出したあなたを、私たちは全力でサポートします。

つらさを抱えたまま頑張り続けるのではなく、少し立ち止まって、自分の心と向き合う時間を持ってみませんか?

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